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障害波遮断変圧器《ノイズカットトランス™️》をもちいたノイズ対策の基本的な考え方

ハウツー
2021.01.20

本記事では障害波遮断変圧器《ノイズカットトランス™️》の基本的な特徴と、ノイズ対策のポイントをご紹介します。

1.   はじめに

電源ラインを伝搬する高周波ノイズによって引き起こされる障害は、ときとして深刻な結果を招くことがあります。例えば、半導体のような高付加価値製品を生み出す生産設備では、1回の異常停止により数千万円の損失を被ることもあります。また、鉄道・航空・自動車・ロボット等の大きな力やエネルギーを扱う機器の誤動作は、金銭的な損失だけでなく人身事故にまで波及する場合もあります。電源ラインのノイズ対策は、こうした事態を未然に防ぐために不可欠です。

このようなノイズ障害を防止するために開発された障害波遮断変圧器《ノイズカットトランス™️》について、使用方法と留意すべき点を紹介します。

2.  障害波遮断変圧器とは

障害波遮断変圧器はノイズ防止素子の一つで、図1のようにノイズ発生源の電源ラインまたは図2のようにノイズの影響を受ける被害装置の電源ラインに挿入して使用します。

図1
図2

また、障害波遮断変圧器はアイソレーショントランスの一種ですが、はじめからノイズ障害を防ぐことを目的に開発された素子のため、その他のアイソレーショントランスである絶縁トランスやシールドトランスとは、構造と作用に大きな差がある点に注意が必要です(表1)。

1 アイソレーショントランスの分類

名称・概要

構造

作用

アイソレーショントランス

抽象的に考え方を表すときに使われる、包括的な呼称。

従って具体的にどのようなものか構造と作用までは表現できない。

絶縁トランス

トランスが実用されだした当初からあるもの。EMC用品ではない。

1次コイルと2次コイルが絶縁されている

1次側の電圧・電流が2次側に直接伝導するのを防いでいる(混触防止)※

低い周波数帯域のコモンモードノイズに多少の効果がある(図3

シールドトランス

古くからスプリアス(不用放射)防止の目的で通信関係に使われてきたもの。

1次コイルと2次コイルが絶縁されている

コイル間やトランスの外周に静電シールドを設けている

1次側の電圧・電流が2次側に直接伝導するのを防いでいる(混触防止)※

 1次側の電圧・電流に含まれるノイズが分布静電容量を通して2次側や周辺に伝搬するのを防いでいる※

 低い周波数帯域のコモンモードノイズに効果がある(図4

障害波遮断変圧器

ノイズ防止を主たる目的として開発されたEMC用品。

1次コイルと2次コイルが絶縁されている

コイル間やトランスの外周に多重の電磁シールド兼静電シールドを設けている

コイルの配置およびコアの材質と形状が高周波ノイズの磁束がコイル相互に鎖交しないようになっている

1次側の電圧・電流が2次側に直接伝導するのを防いでいる(混触防止)※

1次側の電圧・電流に含まれるノイズが分布静電容量結合および電磁誘導により伝搬するのを防いでいる※

低周波から高周波まで全てのコモンモードノイズと、概ね10kHz以上の高周波のディファレンシャルモードノイズを防止できる(図5

※1次側から2次側だけでなく、2次側から1次側においても同様。

図3 絶縁トランスのノイズ減衰特性
図4 シールドトランスのノイズ減衰特性
図5 障害波遮断変圧器のノイズ減衰特性

3.   ノイズを防止する際に留意すべきこと

電源ラインを伝搬する高周波ノイズを防止する際に、欠くことのできない基本的な要素にアイソレーション(回路の分離絶縁)、グランディング(基準電位への接続)、シールディング(線路の遮へい)があります(図6)。

この中でも特にグランディングは、放射と伝導の両ノイズの防止に関わるので、そのあり方はとても重要です。アース、接地およびグランドは同義語と認識される場合が多いですが、ここでは、大地への接続ではなく基準電位をもたらす導電体への接続をグランディングと呼ぶこととします。

図6 ノイズ防止の基本3要素

なお、多くのノイズ対策では接地抵抗(FG大地間の抵抗)は低いことが望ましいとされますが、障害波遮断変圧器を用いる場合にはその考えは当てはまらず、ノイズ防止を目的として接地抵抗を低くする必要はありません。

なぜなら、障害波遮断変圧器は大地に還流するコモンモードノイズを遮断するので、接地線にはほとんど電流が流れないからです。ノイズ防止トランスのシールド・グランドと、防護したい被対象機器のグランドを高周波においても低インピーダンスになるように接続すれば、大地への接続の有無はノイズ防止効果にほとんど関与しません。

※FG:フレームグランド。機器の筐体。

3.1   グランディングとアイソレーション

さて、回路を安定して動作させるためには、そのグランド上の各点を同電位に保つ必要があります。しかし、回路が増え、システムの規模が大きく複雑になると、各回路の動作電流による共通インピーダンスの電圧降下が無視できなくなります(図7)。

そこで、例えばアナログ回路Aと高周波で動作するデジタル回路Bとが共存する場合は回路ごとにグランドに接続する手段が採られます。ところが、そうすると大きなグランドループが形成されてしまい、外来ノイズの誘導を受けやすくなる問題が発生します(図8)。

図7 共通インピーダンスによるグランド電位の動揺
図8 多点接地による広面積のグランドループの形成

このグランドループを無くそうとすると共通インピーダンスが大きくなるので、この両者は互いに矛盾する関係にあり、設計する上で大変厄介な問題です。

これを解決するには、図9のように電源ラインに障害波遮断変圧器を挿入し、電源をアイソレートするのが効果的です。このようにすれば、共通インピーダンスを持たないようにしつつグランドループの形成も防げます。障害波遮断変圧器は、ノイズ防止素子として単体の周波数特性が優れると共に、このグランドループを断ち切れることも大きな長所です。

図9 障害波遮断変圧器によるグランドループの防止

3.2   シールディングとアイソレーション

シールドの端末処理は、両端を接続する方法と片端のみを接続する方法があります。これは、回路がアイソレートされているか否かで判断することができます。障害波遮断変圧器を用いて電源ラインをアイソレートできれば、図10の様に、グランドループが切れるので、シールドの両端を接続することが可能になります。ここで行うシールドの処理は、全ての接続箇所を360°全周を隙間なく接続する包括型の電磁シールドが望ましいです。

そもそも、片端接続にする目的はシールドを介したグランドループを切るためですが、シールドが途切れる開口部ができてしまうので、シールドの効果は不完全なものとなります。電源ラインに障害波遮断変圧器を挿入することによってグランドループを切れば、片端接続にする必要はなくなり、両端接続した理想的なシールドにすることが可能となります。

図10 障害波遮断変圧器を用いてグランドループを断ち切るとシールドは両端接続が可能になる

4.   インバータによるノイズ障害の事例

最後に、障害波遮断変圧器を用いてノイズ障害を解決した事例を紹介します。 

4.1   概要

とある工場の設備担当者から、「特殊な金属を圧延しロール状に巻き取っていく生産ラインでノイズ障害が断続的に発生して困っている」というご相談をいただきました。詳しくは次のような状況でした。

  1. 巻き取りを行う装置が突然停止してしまい、生産中の製品が全て不良品となり多大な損害が生じている。
  2. 停止してしまう装置は、圧延ロールの巻き取りを行うモータ、インバータの動力回路およびそれらを制御する回路で構成されている。
  3. 制御回路用の供給電源は、インバータの動力回路用三相400Vから単相を取り出し、絶縁トランスで100Vに降圧した後EMIフィルタを介して供給している。
  4. 障害発生後、装置メーカに相談し、インバータの供給電源ラインに装置メーカが推奨するEMIフィルタを追加した。しかし、発生頻度が多少減ったもののノイズ障害は継続している。
  5. ノイズ対策用に追加したEMIフィルタの影響で、漏洩電流が増加し、主幹の高圧受電盤に設けられた漏電ブレーカがトリップしてしまうという、新たなノイズ障害が発生した。その安全性に不安が生じていたものの、生産を止められないためやむを得ず漏電ブレーカをバイパスして稼動を続けている。
  6. 装置メーカも約半年間にわたり、何度か調査・対策を実施してはいるものの解決に至らず、お手上げの状態である。

4.2   ノイズ調査の実施

11の測定ポイント①②で周波数3.3MHz、レベルはそれぞれ30Vp-p(図12)、3.5Vp-p(図13)のノイズが確認されました。

図11 測定ポイントの概念図
図12 測定ポイント①で観測されたノイズ
図13 測定ポイント②で観測されたノイズ

4.3   ノイズ対策を実施

図14のようにノイズ発生源であるインバータに対策を施した結果、測定ポイント①では同レンジにて測定限界値以下にまで低減していることが確認され(図15)、測定ポイント②では0.5Vp-pまで低減していることが確認されました(図16)。

図14 実施した対策の概念図
図15 測定ポイント①(対策後)
図16 測定ポイント②(対策後)

4.4   ノイズ対策実施後の結果

ノイズ発生源であるインバータの電源ライン(AC400V系)に障害波遮断変圧器《ノイズカットトランス™》を装着(ノイズ発生源と被害装置との電源ラインを高周波まで分離絶縁)しました。また、放射ノイズを防止するためにシールド対策も実施しました。これにより、制御回路の電源ライン(DC12V系)で観測されたラインノイズを低減させることが出来ました。

なお、漏電ブレーカの誤動作は、インバータから発生したコモンモードのノイズ電流がEMIフィルタを介して大地に漏洩することによって発生していたと推測されます。このトラブルも、《ノイズカットトランス™》で電源ラインを分離絶縁したことによってコモンモードのノイズ電流が流れなくなり、同時に解決することが出来ました。

その後、設備のご担当者から、「設備はノイズで停止することなく稼動している。また、漏電ブレーカのバイパスも外され、安全性も保たれている」との連絡をいただきました。


本稿に記載の波形・図表の著作権は株式会社電研精機研究所に帰属いたします。

《ノイズカットトランス™》は株式会社電研精機研究所の商標です。

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